糖尿病の管理に有効な運動療法
2型糖尿病患者さんに対する有酸素運動(ウォーキング、自転車に乗るなど)やレジスタンス運動(筋肉トレーニング)は、血糖コントロールや心血管疾患のリスクファクターを改善させると報告されています1)。また、2型糖尿病患者さんに対する有酸素運動とレジスタンス運動は、ともに単独で血糖コントロールに有効であり、組み合わせることによりさらに効果が高まります1)。
運動療法の効果
2型糖尿病に対する運動療法は、以下の効果が示されています。
★1 運動療法の急性効果として、骨格筋におけるグルコースと遊離脂肪酸の利用が促進され、糖尿病患者さんにおいては短期的に血糖値が低下します。
★2 運動療法の慢性効果として、骨格筋をはじめとする末梢組織のインスリン抵抗性改善を介して、長期的な血糖コントロールが改善します。また、エネルギー摂取量と消費量のバランスが改善され、減量効果が期待できます。
有酸素運動を習慣的に行うと、運動中に脂肪分解を促進するホルモン分泌や脂肪分解酵素活性が上昇する2)ことが分かっています。そのため、脂肪代謝が亢進する身体となり、体脂肪が蓄積しにくく、肥満になりにくくなると考えられます(⇒ 体脂肪がつきにくい体に体質改善できる)。特に肥満を有する場合は、食事療法と運動療法を組み合わせることがインスリン抵抗性を改善させるうえで重要です。
8週間以上の運動療法に関するメタ解析(平均3.4±0.9回/週、18±15週間)では、有意な体重減少は認められませんでしたが、HbA1cは有意に改善(-0.66%)したと報告されています1)。
運動の頻度と方法
有酸素運動
息が軽くはずむ程度(楽である~やや楽である)のウォーキングを一回あたり20-40分で、週に3回以上行う(週に150分以上)と良いでしょう。運動しない日が2日間続かないように行いましょう。
ウォーキングの場合、最初5分程度かけて少しずつ速度を上げていき(ウォームアップ)、最後の5分で少しずつ速度を落とす(クールダウン)歩き方にすると良いでしょう。
歩数を指標にする場合、日常生活活動を含めて8000歩/日程度が目安となります。 有酸素運動は食後1時間~1時間半後の血糖値が上がる時間帯に行うことが望ましいとされています。
※インスリンやSU薬などの薬物療法中の患者さんは、空腹時に運動を行うと低血糖を起こす可能性があるので注意を要します。インスリン減量や補食に関しては主治医にご相談ください。
レジスタンス運動
レジスタンス運動は筋肉量や筋力を増加させるとともにインスリン抵抗性(インスリンの効きにくさ)を改善し、血糖コントロールを改善します。
一般的には、連続しない日程で週に2~3日、主要な筋肉群(胸、背中、下肢)を含んだ8~10種類のレジスタンス運動を10~15回繰り返す(1セット)ことより開始し、徐々に強度やセット数を増加させていくことが推奨されます。目標値に沿ってマシーン、フリーウェイト、バンド(ラバーやシリコン)、自分の体重を利用したものが勧められます。
日常生活の中で活動量を増やす
日常の座位時間が長くならないように、軽い運動を合間に行うことが勧められます。有酸素運動に取り組むこととは別に、少なくとも30分に一度は軽度の活動をすること、生活活動を増加させる工夫をしましょう。
運動療法を始める前の注意点
- 網膜症、腎症、神経障害などの併発症や、整形外科的疾患などを含む身体状態がある場合には、主治医にご相談ください。糖尿病網膜症がある場合、呼吸を止めていきむような運動を控える必要があります。
- 現在定期的な運動習慣(最近3か月以内に週3回以上、中程度の身体活動を30分以上行っている)がない患者さんが、新規に運動を開始する際には注意が必要です。短時間で軽い運動から始めて、段階的に運動時間や強度を上げていくことが勧められます。
さあ運動を始めましょう
開始前:準備運動は念入りに行いましょう。身体に痛いところがあったり、具合が悪い場合には無理せず休みましょう。
運動中:ウォーキングの場合には少しずつ速度を上げていき、こまめに水分補給をとることも忘れずに行いましょう。
運動終了後:整理運動も忘れずに行いましょう。
監修:健診会東京メディカルクリニック
管理栄養士 田口 絢子
参考文献
1) 南江堂:糖尿病診療ガイドライン 2019
2) 星雲社:運動生理学の基礎と発展 2019
3) 高血圧治療ガイドライン 2019
4) 健康づくりのための身体活動基準 2013
5) 脂質異常症ガイドライン 2018